prove my love






 シャーペンを持った手が止まっていたので、哲雄は蓉司のプリントをのぞき込んだ。見ると、「下線部Cを訳せ。」という問いで躓いているようだ。
「何がわかんねえの」
 聞くと、蓉司は軽く唸った。そして、プリントの上に人差し指を置き、そのまま、す、と滑らせる。折れそうに細い指が、まるでプリントの上で踊っているように。哲雄には感ぜられた。
 蓉司の指が、ある一点で止まる。
「この単語が、わからない」
「prove――」
 発音すると、蓉司が頷いた。「文の構造はわかるから、ここだけわかれば、訳せるんだけど……」
 哲雄は、その単語の意味を頭で思い浮かべて、なぜかほんの少しの焦燥が胸に沸き上がるのを感じた。その正体は何かということに思考を巡らせていると、黙ったままの哲雄を訝しく思ったのか、蓉司が不思議そうに哲雄の顔をのぞき込む。
「哲雄?」
「……ああ」
 哲雄は蓉司の頬に手をやると、顔を近づけて、触れるくらいのキスをした。
 蓉司は、哲雄の唐突な行為にさすがに驚いたようで、哲雄が触れた頬に朱をさして目を丸くしていた。
「……証明する」
「え?」
「prove」
「あ……」
 proveの意味はわかったようで、すぐに訳を書き始めていたが、それを教えるのにキスは必要だったのかとか、そもそも何でキスしたのかとか、そういうことは一切尋ねてこなかった。恐らく数分すれば蓉司の思考も勉強用のそれに切り替わるだろう。
 哲雄は、蓉司のプリントが文字で埋まっていく様を見ながら、先ほどの自分の行動について考えた。
 そうしろと本能が言っていた。
 自分は従ったまでだ。
「……」
 軽く息をつく。
 証明したかったのかもしれない。
 何かを。
 恋とか愛とかじゃなくて、ただ、自分と、蓉司という、ただ二人の存在を。


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