無意識ヤローの






ズシリ、と背中がいきなり重くなったと思ったら、案の定三橋がくっついていた。
「なんで乗るんだよ」
「なんでってオメー……ふああ」
言いおわらないうちに三橋が大きな欠伸をする。
「歩くのが面倒だからだ」
そのまま肩に懐かれた。
「あのなぁ……」
昨日は遅くまで伊藤の家でゲームをしていた。三橋は最初から帰る気がなかったのか、そのまま伊藤の部屋に泊まったのだ。
今朝、伊藤が髪をセットしている間も、三橋はずっと寝ていて、ようやく起きてきた今もついた寝癖をそのままにしている。もしかしたら今日は一日中昼寝コースかもしれない。
「イトー。牛丼……」
「よだれこぼすなよー」
自分の背中で二度寝をかます三橋をちらりと確認する。間違いない、熟睡コースだ。
「ん……?」
そこでふと、ある違和感を感じた。ふんわりと、良い匂いがするのだ。まるで女の子みたいな、甘い香り……。
嫌な予感にピタリと歩きを止めて、おそるおそる肩ごしの男を見る。ふわり、金色の髪から甘い香り。
伊藤は自分の胸がどきどきいい始めたのに気が付いて、あわてて首を振った。妙な考えを頭から消し去る。
「イトー……デザート…」
三橋はそんな伊藤の葛藤も知らずに、自分の頭を伊藤の肩にすり付けている。
「アイス……」
「オイ三橋、」
嫌な予感に釘を刺す暇もなく、首を思いっきり舐められた。ぞわっとする感覚に思わず足を止める。
「なにしやがんだテ……」
メー、が続かない。三橋の髪から匂う甘い香りのせいだ。
(さてはこいつ、圭子のシャンプー使ったな)
再び歩きだそうとして――やめる。いや、やめざるを得なかった。
「……」
激しい自己嫌悪とその原因を作った三橋の気持ち良さそうな寝顔に腹が立って、一発小突いてやろうと思った、が。
「イトー……」
三橋の寝言は続いている。伊藤はため息をひとつつくと、黙って歩きだした。
 許してやろう。今日はちょっとだけ、特別な朝だ。 




戻る