無責任ヤローの






ピコピコピコ。人工的な明かりのなかで、三橋はひたすらにコントローラのボタンを叩いていた。
もちろん伊藤の家である。しかし、部屋の主はいつのまにか寝てしまったようで、さっきから静かな寝息を立てている。
「あーっ……!」
画面に『GAME OVER』の文字。結構良いところまでいったのでむしゃくしゃして、ベッドで寝ている伊藤の頭を軽くはたいた。
「ウーン……」
伊藤は起きる気配がない。ぺちゃんこの頭がもそもそと向きを変えた。黒い髪が揺れる。
(カッパのくせにサラサラしとる……)
ためしに伊藤の髪を触ってから自分の髪を触ってみる。色を入れてパーマもかけている自分とは、髪質がまったく違う。
「……カッパのくせに」
悪口を、今度は声に出して言ってみる。しばらくその長い髪で遊んでいると、伊藤がまたうなりはじめた。
「…………京ちゃあん……」
「…………」
髪を弄っていた手を止めて、そのまま伊藤の額に移動させる。
バチン。思いっきりデコピンをかました。
「ウーン……」
伊藤は苦しそうに眉根を寄せたが、起きる様子はない。
「天罰じゃ」
時計を見ると、三時半を差している。もう寝ようかと電気のスイッチに手を伸ばしたとき、伊藤がもう一度寝返りをうった。ひどく苦しげな表情だ。うなされているのかもしれない。
「……オメーが悪いぞ、カッパ」
「……やめろぉ……ミツハシ……」
思わず動きを止める。
「…………」
「三橋……」
「………………」
いそいそと移動して、さっきのデコピンで赤くなっている額を軽く撫でてやる。
「……よし」
すっきりとした気分で電気を消すと、ベッドによじ登って伊藤から布団を半分くらい貰った。背中合わせに横になる。
「……う〜ん…」
伊藤がまた寝返りをうつ。と、三橋は突然伸びてきた伊藤の手に掴まれてぎゅうと抱き寄せられた。
「な……い、イトー、おい。なんだ、なんだ、殴られてーのか……」
まさかの展開に動揺して振り返ることができない。首筋に伊藤の息がかかる。
「寝ぼけてんのか、コラ、放しやがれ、ボケ、ナス、ウニ、カッパ!」
沈黙。どうやら起きる気はないらしい。規則正しい呼吸が背中に伝わる。
「……」
なんだか馬鹿らしくなってきた。こんな変態野郎を気にしていたら、いつまでたっても眠れない。
三橋は無理やり目を閉じて、明日の飯のことを考えはじめた。しかし、変な思考が邪魔をして、なかなか寝付けそうにない。
「……オメーが全部悪ぃんだぞ、カッパ」
とりあえず夢にカッパが出てきたら一発殴ってやろう。そう心に決めて、三橋は布団をもう少し引き寄せた。


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