シアセってやつ?






 いつものように、屋上で昼寝。ぽかぽかしていい天気だ。……と、思っていた。少なくとも、雨が降り出す前までは。
 突然呼吸が急激に苦しくなって、三橋は夢の中から引き摺り下ろされた。
何だ誰だ、俺様の睡眠をジャマするやつは――。
 もちろん返事はない。当たり前だ。実際に声に出たのは苦しげなうめき声ひとつだったのだから。
まだ眠気が勝っていたせいでしばらくぼんやりとしていたが、ピカリと空が光ったのを確認していそいそと屋上を後にする。
「ツイてねー……」
どうしようもないが、何分間か無防備に雨に当たり続けたせいで、自慢の短ランもボンタンも数倍に重く、所々素肌に張り付いて気持ち悪い。
三橋がずるずるとナメクジのように裾を引きずりながら階段を降りると、校舎はしんと静まり返っていた。まだ授業中らしい。
もちろん途中参加なんてする気はまったくなかった。仕方なく階段を引き返し、屋上に出る扉の前に座り込む。途端に、さっきまでの眠気が戻ってきた。
とろとろと、暖かい意識の中に落ちていく。

三橋が夢の中で三杯目のラーメンをすすりはじめたときだった。ふと寒気を感じて身を震わせると、目の前には見慣れたトンガリ頭があった。
「……」
伊藤だ。まあいいか。さして気にもせず二度寝に入ろうとして、三橋は違和感に気付いた。億劫ながらも再び目を開ける。
そして、伊藤の手が自分の短ランのボタンにかかっているのを見て……とりあえず、殴っておいた。
「ってー! 起きてたなら言えよ」
「……寝込みをおそおーとはいい度胸じゃねーか」
拳の先の痺れから次第に覚醒する。
「誰が襲うか!」
「じゃーなんだヨ」
その言葉に、しばし沈黙。
「やっぱりおそ」
「どっかのバカが!」
ばさりと何かが降ってきて、視界が真っ暗になる。正体はすぐにわかった。伊藤の長ランだ。
「風邪でもひいたら、厄介だからな」
顔を出そうとして、やっぱりやめた。
「…俺は風邪なんかひかねー」
「バカだから?」
「バカはそっちだろ、カッパ!」
勢いに任せて顔を出してしまい、後悔する。伊藤はこっちを見ながら、困った顔で笑っていた。
……なんでこっちが赤くならにゃいかんのだ。
「とりあえず、それ脱げよ」
「イヤダ」
「じゃあそれ着ろ」
「い…イヤダ」
「着替えさせてほしーのかよ」
「死ねエロガッパ」
普段なら殴ってやりたいところだったが、確かにこの状態は早く脱却したい。
三橋は我慢して重たい短ランを脱ぎ、シャツも脱いで、代わりに伊藤の長ランを着た。伊藤が今まで着ていたせいか、暖かい。
「似合ってるぜ」
「当たりめーだろ」
「ニヤニヤすんなヨー」
「そりゃオメーだろ!」
ガツンと蹴りを入れると、ナニスンダヨと、いつもの反応。
 本当に伊藤の口元が緩んでいるのには何も言わないでおいてやろう。そう思って、三橋は階段を降りはじめた。
「オイ三橋、脱いだの持ってけよ」
伊藤の困った声を背中に受けながら、
「オメーの任務じゃ」
これからのことを少し、考えてみた。



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