そよぜさんこんにちは






 ふわりと揺れた。
 三橋の髪。
 やわらかそうな金色の髪が風になびいて揺れる。
 何となく触ってみるとやはりやわらかかった。わしゃわしゃしていると、三橋が頭をこすりつけてくる。眠いのかも知れない。
 そういえば俺も眠いや。風があったかくて気持ちいいもんなぁ。
 眠気にまかせてまぶたを閉じると、しばらくして、またパチリと目を開ける。そして、肩にもたれかかっている三橋に、そっとささやきかける。
「キスしていい?」
 多分、こいつ、起きてる。
 なんとなく直感して、証拠に、三橋はパッと目を開いた。そして、俺の目を見ると、「バーカ」と一言。
 そしてまた目を閉じる。
 今の、了解しました、とか、オーケーです、って意味で取っちゃっていいの? 違う意味でも、俺的解釈ってことで、都合のいいように解釈しちゃうよ? 口には出さない。言葉にしたら三橋嫌がるし。そう思ってなくても。
 やわらかそうな髪が目に入る。否、やわらかいのはカクニン済みだ。そっと触れてから、上半身を傾げてキスをする。
 三橋の唇は少しかさついていて、でもやわらかかった。まあ、これもカクニン済みなんだけど。
 三橋がうっすら目を明ける。そして、軽く俺の肩を押すから、俺はすぐに唇を離して三橋から体を離した。
 三橋は俺の目を見ようとしない。ただ、あえて目をそらしているわけではなく、ぼうっと、どこかただある一点を見つめているようだった。見つめて、何か考えているようだった。
「三橋?」
 三橋はようやく俺の目を見た。
「京子にも、いつもこんなふうにしてんの?」
 このセリフを、俺の目を見て言えるんだから、やっぱり三橋はスゴイ。

 ――ふられちゃったよ。

 口には出さない。
 ただ、もう一度髪をなでて、もう一度キスをする。
 三橋はもう何も言わなかった。
 言えないようにしたのか。俺が。
 でも、体の力を抜いて目を閉じた三橋を見て、俺は満たされた気持ちになりながら、同じように目を閉る。
 風が二人をそっとなでていく。
 ああ、今日はいい日だ。


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