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夕陽 ゆっくり空は朱色に染まり、それはまるで世界が夜に沈んでいくようだった。 どこかで朝陽が昇り始めていることなど、にわかには信じることができない。 「綺麗だわあ」 と、マリアが感嘆の声を上げた。僕はそれに同意する。望月や織田も同意する。ただ、江神さんだけはじっとその夕焼けを見つめていた。どこか冷めた瞳で。 「江神さん?」 僕が声をかけると、緩慢な動作で江神さんは振り向いた。 「綺麗やな」 ぽつりと、それだけ。 「でも、私たちはそれに気づきもしないんだわ」 「今こうして気づいてるだけ立派や」 望月が言うと、織田が「確かになあ」と頷いた。僕は目を細めて夕焼けを見つめた。 「EMCらしからぬ会話やな」 江神さんが笑った。みんなも笑う。 「いいじゃないですか、たまにはそんな会話をしたって。これが私達らしからぬ会話なら、とてもお花見なんて行けませんね」 「お花見だけでなく、海にも山にも行けんなあ」 そんな無駄話をしながらゆっくりと歩く。江神さんはやっぱり、目を細めて笑いながら、どこかその表情は冷めていた。 こういう人だ、江神さんは。 僕は諦めてマリアに突っかかりにいった。いつの間にか話が摩り替わっていて、マリアは、望月に貸した小説が返ってこない、と嘆いていた。望月は返したと言い張る。織田はそんな望月をからかい、僕はマリアをからかう。 江神さんはそれを、キャビンを吸いながら見つめていた。今度は優しい瞳だ。 きっと、江神さんはEMCの夕陽なんだ。そうぼんやりと僕は思った。 |